北海道病院薬剤師会誌掲載 2014年5月24~25日

2014.5.24 研究発表

「保険薬局における糖尿病療養指導」
~運動療法への取り組み(第1報)~
【医師・看護師・管理栄養士とのチーム医療を目指して】

yakuken7a.jpg日程:2014年5月24日・25日
場所:札幌コンベンションセンター
研究者 :(株)まつもと薬局 自由が丘店
     余西竜弘・刀禰谷雅之・田中啓介・梅森ひとみ・松本健春
     一色恵(管理栄養士)・横田友紀・堂前奈津子(山田内科クリニック看護師)

目的

  • 糖尿病の治療には食事療法・運動療法・薬物療法の三本柱が基本である。保険薬局における糖尿病療養指導で運動療法に関してはウォーキングや水泳などを勧める等のアドバイスに留まっているのが現状である。運動療法は、血糖値を下げるだけではなく、脂質、血圧、体重などのコントロールや骨格筋、心肺機能の強化、さらにはメンタルヘルス面への影響など、薬物療法や食事療法にはない効果も認められている。
  • そこで当薬局では患者様に手軽に楽しんで出来る運動を知ってもらい、健康増進の一助にしてもらう為、講師を招いたノルディックウォーキング体験会及び管理栄養士による低GI食試食会を試みた。

ノルディックウォーキングとは

yakuken7b.jpgノルディックウォーキングは2本のポール(ストック)を使って歩行運動を補助し、運動効果をより増強するフィットネスエクササイズの一種である。ノルウェーを中心とした北欧が発祥の地であり当初は、クロスカントリースキー競技選手のサマートレーニングとして行われていた。

ノルディックウォーキングの利点

  • 年齢性別を問わず気軽に楽しめる。
  • エクササイズの効率が非常に良い。

ウォーキングでは1時間に約280kcal程しか消費しないが、1分間に120歩程度のペースで上半身の力を有効に使って歩けば、約400kcal程度まで引き上げることが可能となる。 メタボリックシンドローム対策として非常に有効である。

1.姿勢の矯正
適正な長さのポールを持つことにより、背筋が伸び(前後の歪み)、左右のバランス(横の歪み)を矯正することができる。
2.正しいウォーキングフォーム
正しい姿勢でポールを操作しながら歩くことにより、自然と歩幅が広がり理想的なウォーキングフォームを身に付けることができる。
3.負担の軽減
ポールをつきながらの歩行は、2足歩行から4足歩行(3点支持歩行)となるので、着地時の足(足首・アキレス腱)、膝や腰への負担が通常のウォーキングに比べて軽減される。
4.全身運動
ポールを操作することにより、通常のウォーキングより多くの筋肉(全身の90%)を使うため、ウォーキング以上に全身運動としての効果が期待できる。

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運動療法の効果は、インスリン抵抗性の改善、すなわちインスリン感受性の増大である。一方、運動強度が大きい場合、あるいは運動時間が長く及ぶと、グルカゴン、カテコールアミンなどのインスリン拮抗ホルモンの分泌が刺激され、肝糖放出や脂肪分解によるFFAの供給が増大し、コントロール不良な糖尿病患者の状態はいっそう悪化する。さらに健常人においても運動が60分以上に及ぶと、血中ケトン体濃度の急激な増大が認められることから糖尿病運動療法は食事療法、薬物療法により、比較的コントロール良好に至った症例や、重度の高血糖を認めない糖尿病患者が適応であり、運動強度は中等度以下(歩行中心)で、持続時間は10~30分間程度が望ましいと考えられる。

【中等度の運動強度とは】

  • 運動強度は、Mets(metabolic equivalents)という安静座位の何倍にあたるかという単位で表すことができる。
  • 安静座位時が1.0Metsに対し、室内移動歩行2.0Mets普通歩行3.0Mets 早歩き4.0Metsノルディックウォーキング5.5Mets軽いジョギング6.0Metsとなる。

《強度分類》
低強度⇒ 3.0Mets未満
中強度⇒ 3.0~6.0Mets
高強度⇒6.0Mets以上
したがって、中等度の運動強度とは普通歩行~早歩き(歩行ペース110~130歩/min)が目安である。

方法

  • 参加者は、来局患者様、職員などを含め、計21名(男4名、女17名)である
  • はじめに看護師によるメディカルチェックと運動後に用意した試食の前後で
  • 血糖値を測定した
  • また体験後のアンケートも実施した

タイムテーブル

開催日:平成25年11月2日 14時~ 
1.参加調査票への記載

2.健康状態の確認・・・血圧、足腰の状態

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3.講師よりノルディックウォーキング説明(1時間)

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4.準備体操(15分)、ウォーキング体験(30分)

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5.血糖値測定(測定器:アキュチェックアビバナノ)・・・運動後の空腹時・食後1時間

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6.栄養士による低GI食の説明・・・

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7.糖質オフの豚丼の試食(レシピ別紙参照)

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8.体験後のアンケート記載

正しいウォーキング法

  • 視線は落とさず前方へ
  • 背筋は伸ばしましょう
  • 足は踵からおろし、歩幅は普段の歩きより広くとります
  • ポールは軽く握り、リラックスして腕を前後に振ります
  • ポールをつく位置は体の脇、前の足と後ろ足の間です
  • ポールは斜め後方に押し出します
  • 時間の目安は30分~1時間

反省点

  • 試食会で提供した果物の果汁が指に付着し手洗いをしないまま血糖値を測定したため、誤差が生じた。
  • ウォーキング中、参加者と職員とのコミュニケーションが少なく、淡々と歩いていたため、職員にウォーキングのノウハウを周知させ機転を利かせるようにさせたい。
  • 患者様への食事の配置や血糖測定など手順がスムーズにいかない場面があったため職員の役割分担をもっと明確にすべきだった。

体験後のアンケートについて

【ノルディック・ウォーキングを体験して】
〇気になっていたノルディックウォーキングを体験できてとても良かった
〇歩くのが楽でした。楽しく歩くことが出来ました。
〇難しいと思いましたが正しい姿勢、歩幅を実感できました。
〇もっと歩きたかった。すごく体がすっきりした。
【「糖質オフでおいしい食事」を試食されて】
〇いかに我が家の味が濃いか実感しました。
〇糖分が少なくてもとても美味しく頂けました。
〇カロリーの割に食べごたえがありました。

考察

事前にメディカルチェックを行うことによって、1名の方が血圧207/80と運動を行うには問題があると思われる状態である事が分かり 、医師の判断を仰いで参加を中止してもらった。運動療法の実践における患者様の安全管理の重要性が確認できた。

  • 運動療法で大事なことはいろいろな運動を提案していく中で最終的には患者さんが「この運動が好きだ」と行動変容を起こさせることである。
  • 運動を楽しく持続できるための方法と環境を一緒に探し、提供することも薬剤師の役割であると思われる。
  • 今後も定期的にノルディック・ウォーキング体験会を開催し、追跡調査をしていきたい。