保険薬局における糖尿病療養指導 2013年4月号

2013.4. 1 研究発表

北海道病院薬剤師会誌掲載
震災などの緊急時に服用医薬品情報を入手する為の一手段の取組み」
~領収証にQRコードを添付した医薬品情報サービスのアンケート調査~

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掲載日:2013年4月号
研究者: (株)まつもと薬局 自由が丘店
     刀禰谷雅之 松浦享平 松本健春



はじめに

東日本大震災で被災された皆様に心よりお見舞いとそして一刻も早い復興をお祈り申し上げます。
当薬局では、震災時などの緊急時に服用医薬品情報を入手する為の一手段の取組みとして領収証にQRコード(2次元バーコード)を添付するサービスを始めた。そこで、この取り組みに至るまでの背景と経緯、そして実用化になってからアンケート(①、②、③)調査を実施しその結果をまとめたので報告する。

掲載

平成23年3月11日東日本大震災直後、予想もしない大津波が東北地方を襲いました。生活への不安、そして生活していく上で欠かすことのできない薬はどうするのか。特に糖尿病薬を服用している方は血糖管理の悪化により高血糖状態が持続する事によって昏睡等の重症化も危惧される。今まで服用していた薬が手元にない状況下、服用医薬品情報を入手する為の一手段である「お薬手帳」がない場合、他に知る方法はあるのだろうか。そのような疑問、不安を解決させるためにまず、来局された方にアンケート調査を実施することにした。

対象と方法

アンケート①は昨年の震災直後に、85名の糖尿病に罹患している方を対象に実施した。年齢層は、40~70代が約9割占めていた(図1)。質問の内容は、服用中の薬についての関心度、認識度を調査した。なかでも緊急災害時における薬の保管方法等については自由記載とした。

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アンケート②、③は震災から1年が経過した今年の3月に、来局した100名の方を対象に実施した(図2)。質問の内容は、領収証にQRコードを添付する情報サービスを開始してからのQRコードに対する印象度や利用方法について調査した。
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結果と考察

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アンケート①より

1. 『緊急震災時におけるこころ構え』という表題で、「緊急時にお薬手帳がない時、現在服用している薬の名前を知っていますか」「医療機関に受診した時に薬の名前を伝えられますか」という質問に対して図3に示すよう

に約8割の方が知らないとの回答でした。また注射剤では、デバイスの「色」「名前」「単位数」の項目に対し色や単位数で回答率が高かった。名前については内服薬同様に低い回答率でした。


2. 「緊急災害時における健康管理で考えている事がありますか」という質問に対して、意見を分類すると、以下に示すように一つは、現在、実行している薬の管理方法と、もう一つは薬の情報管理に対し医療機関に求める意見に分かれた。

現在、実行している薬の管理方法

  • 薬は箱、缶に入れて整理してある
  • 薬の説明書は保管してあり、すぐに持ち出せる場所に置いてある
  • 常に「お薬手帳」は持っている
  • 糖尿病手帳等と一緒にまとめて一つの袋に入れてある
  • 注射剤はクーラーボックスに入れてあるので、それを持って行く

薬の情報管理に対し医療機関に求める意見

  • カード(運転免許証等)のように簡易的な物があれば良い
  • 財布に入れられる携帯カードがあればいい
  • 携帯電話に薬の名前を入力しておく必要があるかもしれない


アンケート①の結果から我々医療従事者が出来る事は何であるかと検討した内容を次に示す。

  • 医薬品情報は携帯しやすい大きさが便利
  • 常に持ち歩ける物
  • お薬情報は、QRコードに入力可能である
  • 携帯電話の高い普及率からQRコードを利用することは有用性が高い
  • 通信回線の不通時にも使用可能である
  • 会計の際、領収証は財布に収める事が多い

そこから考案したのが、領収証にQRコードを添付する医薬品情報サービスである。実際にQRコードを添付して実用化した領収証と携帯電話でQRコードを読み取った医薬品情報を図4に示す。
読み取る項目は、調剤日・処方日・薬品名・用法、用量・処方日数である。
店舗内には図5に示すように表示してある。

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アンケート②より

1. 「あれから1年、何か変わった事はありますか」という表題で、アンケート調査を実施した。QRコードを添付した領収証に対する認識度は「知らない」と回答した方は約8割と非常に高かった。要因として考えられる事は開始時期が年末であった事と多忙な時期にあって説明不足も重なった事があげられる。更に「知らない」と回答した方にQRコードの説明をすると約8割の方が良いサービスだという回答が得られた。更に「知らない」と回答した方にその理由について分析する為に、3回目のアンケート調査を実施した。最初にQRコードの利用方法について説明を加えた上で「使ってみたい」という回答は8割強と高かった。

「いいえ」と回答した方の理由については

  • 携帯電話を持っていない
  • 携帯電話の使い方が分からない
  • 薬剤情報の紙があるから不要
  • 面倒だからいらない
    との意見でした。

まとめ

震災などの緊急時に服用医薬品情報を入手する為の手段として「お薬手帳」が広く利用された。もし「お薬手帳」がなかったら、との思いもありQRコードを添付した領収証を実用化するに至った。その後の反響は、携帯電話の高い普及率も重なり関心度は非常に高かった。また携帯電話を持っていなくても第3者からの読み取りが可能で、「震災などの緊急時」以外でも応用できる。たとえば日常生活の中で、外出時に意識不明状態で医療機関に緊急搬送された場合の服用薬の確認や入院時における持参薬管理の一手段になりえる。
医薬分業が進んでいる中、医薬品情報を共有するため薬・薬連携を更に充実させる一手段として利用は可能だろうか。「お薬手帳」が様々な場面で情報共有ツールとして活用される中、それを補っていく上でQRコードの普及が更なるツールとして役立てられないだろうか。まずは、十勝から発信させたい。