第58回北海道薬学大会 2011年5月21~22日

2011.5.21 研究発表


「他剤からリラグルチドへ変更となった患者への聞き取り調査による薬効および副作用評価」

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日 程:2011年5月21~22日
場 所:札幌コンベンションセンター
研究者:(株)まつもと薬局 自由が丘店
大野伴和、刀禰谷雅之、永﨑裕子



はじめに

現在、消化管ホルモンであるインクレチンに関連した様々な薬剤が発売されており、中でもジペプチジルペプチターゼ-4(以下、DPP-4)阻害薬については発売より1年以上が経過し、その使用経験に関する報告も比較的多く見られる。
しかし、注射剤であるグルカゴン様ペプチド-1(以下、gLP-1受容体作動薬については治験段階での臨床試験成績1)はあるが、発売後の臨床成績に関する報告は少ない。そこで今回、特に他剤からの切り替え症例に的を絞り聞き取り調査による薬効評価および副作用評価を行ったので報告する。
方法

1.調査対象
2010年6月~2011年1月までの8ヶ月間に他の糖尿病用剤からリラグルチド(ビクトーザ皮下注Ⓡ)へ処方変更となった患者21名とした.
2.調査方法
表1に示す内容が記載された調査用紙にて、随時聞き取りを行った。

「表1 調査用紙の聞き取り項目」


□ 検査値(HbA1c、血糖値、C-ペプチド)
□ 体重
□ 副作用の有無および副作用への薬の処方の有無
□ 併用薬
□ 手技(打つ時間、打つ部位、打ち忘れた場合等)


また、あわせて食事・運動に対する意識調査として、①食事で何か気にしていることはあるか?②運動は何かしているか?の2点についても聞き取りを行った。

結果

1.患者背景
今回対象となった21名の患者のうち、男性は14名、女性は7名であった。リラグルチド開始前の服用薬の割合を図1に、服用剤数を表2に示す。

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図1 リラグルチド開始前の併用薬の割合
   (Bg:ビグアナイド系、SU:スルホニルウレア系、TZ:チアゾリジン系)


服用薬の割合は、Bg剤が最も多くなっており、次いでSU剤、持効型インスリンと続いている。
服用剤数は3剤が最も多く、平均服用剤数は2.6剤であった。
また、糖尿病の合併症として腎機能の低下があった症例は9例あり、7例が60≦gFR<90m/min/1.73m2のCKDステージ2(軽度低下)で、2例が30≦gFR<60m/min/1.73m2のCKDステージ3(中等度低下)であった。


2.HbA1cの推移
HbA1cの低下がみられた患者は21名中19名と低下の度合いに差はあるものの、大半の患者で低下が認められた。
図2にHbA1cの推移を示す。治療開始前の平均HbA1cは7.7±1.6%で、治療開始12週後には7%前後と0.7%程度の低下が認められた.しかし、12週を境にその効果が頭打ちになる傾向もみられた。

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3.体重の推移

体重の推移については、増減にバラツキがあったため、全体の平均値をとると24週で3kg前後の減少にとどまった。


4.検査値・体重増減といくつかの要因との関連性

4-1 持効型インスリンの使用の有無
リラグルチド投与前に持効型インスリンを使用していた群(n=8)とそれ以外の群(n=13)で、HbA1cおよび体重の変化量を比較したものを図3に示す。
HbA1cは、インスリン使用群で有意に低下が認められた。また、体重に関しても、インスリン使用群で減少傾向が認められた。

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図3 前投薬として持効型インスリン使用の有無による変化量の比較(投与後12週)
左図:HbA1c 、 右図:体重
yakuken3shikaku_grey.gifあり(n=8) yakuken3shikaku_white.gifなし(n=13)
Student's t-test(*p<0.05 、 **n.s.)


4‐2 脂肪肝の有無
肝機能検査値(主にALT、AST)の上昇があり、患者からの聞き取りで脂肪肝が判明した患者を脂肪肝有りとした。脂肪肝の有無による、HbA1cおよび体重の変化量を比較したものを図4に示す。
HbA1c・体重ともに、脂肪肝がない群で減少傾向が認められた。

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図4 脂肪肝の有無による変化量の比較(投与後12週)
左図:HbA1c 、 右図:体重
あり4あり(n=6) なし4なし(n=15)
Student's t-test(*n.s. 、 **n.s.)

4-3 副作用の有無
リラグルチド投与後の副作用の有無による、HbA1cおよび体重の変化量を比較したものを図5に示す。
HbA1cは、副作用があった群で有意に低下が認められた。また、体重に関しても、副作用があった群で減少傾向が認められた。

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図5 副作用の有無による変化量の比較(投与後12週)
左図:HbA1c 、 右図:体重
あり5あり(n=16) なし5なし(n=5)
Student's t-test(*p<0.05 , **n.s.)


5.副作用発現率

副作用は21名中10名の患者で認められた。
内容としては、胃のむかむか感が最も多く9名(42.9%)、次いで便秘6名(28.6%)、低血糖1名(4.8%)と続き、下痢症状を呈した患者はいなかった。胃のむかむか感は、投与開始後2~3週の比較的早期に発現し、継続により投与開始から4~6週後には大半の患者で消失していた。1例のみひどい胃のむかむか感が継続し一旦0.6mg投与に変更になったが、検査値悪化のため0.9mg投与に戻るも副作用の発現はなかった。便秘に関しては、緩下剤の服用継続により症状の改善が認められていた。低血糖症状については、SU剤との併用患者で1名あったが、重篤なものではなかった。


6.手技、食事・運動に関するアンケート結果

6-1 手技
打つ時間としては、朝と答えた患者が19名と大半を占めた。しかし、人によって昼あるいは晩に打つという方もいた。
打ち忘れに関しては、全員が打ち忘れはないと答えました。
打つ部位は全員がおなかと回答しており、二の腕、太ももなどの回答はなかった。

6-2 食事・運動
食事・運動についての調査では、食事内容を気にしていると回答した患者や運動をしていると回答した患者は全体の2割程度であった。気にしている内容としては、「野菜を摂るようにしている・間食を減らすようにしている・ごはんを少なめにしている・食事の量は減らしている・油を控えめにするようにしている・味は全体的に薄めにするようにしている」等一般的なものが多かった。


7.リラグルチド中止症例

今回、リラグルチドを処方された患者21名中、約半数の11名が投与中止となり他剤へ切り替えとなった(内訳:エキセナチド5名、持効型インスリン2名、経口糖尿病薬4名)。
リラグルチド開始から中止までの平均期間は、約6ヶ月間であった。
リラグルチド中止後のHbA1cの推移を図6に示す。低下している症例もあるが、変更後の期間がまだ短いため、あまり変化のない症例が多くなっている。

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図6 リラグルチド中止後のHbA1cの推移(変更後の経過があるもののみ記載)
   実線エイセナチドへ変更点線経口糖尿病薬へ変更

考察

リラグルチド投与前に持効型インスリンを使用していた患者でHbA1cの低下、体重の減少傾向がより認められたことから、注射の手技とその効果が関係している可能性も考えられた。そのため、検査値・体重が低下しない症例では、注射手技の再確認を行う必要性も感じられた。
副作用発現症例では、薬の効果が出やすい傾向があった。食事摂取量とHbA1c、BMIには一定の関連が認められたとの報告2)もあり、食欲低下などの副作用が間接的に検査値の低下に影響した可能性も考えられる。そのため、副作用発現によるアドヒアランスの低下を防ぐための服薬指導が重要となってくる。
また、今回3ヶ月前後で効果が頭打ちになり、6ヶ月前後で中止症例も多くみられたことから、薬の効果のみに期待するのではなく、あわせて、食事・運動療法についても患者へ促していく必要があると感じた。
今回得られた結果をもとに、今後服薬指導の際に使用できる補助的な資料の作成などを行っていき、リラグルチドの効果を更に高める服薬指導ができるようにしたいと考えている。

引用文献

1)、杉井寛ほか、ヒトgLP-1アナログ製剤リラグルチドの薬理学的特徴および臨床試験成績、日薬理誌、136、233-241(2010)
2)、北谷直美ほか、リラグルチド使用中の2型糖尿病患者に対する食事調査、日本病態栄養学会誌、13、157(2010)