日本薬剤師会学術大会in長野 2010年10月10~11日

2010.10.10 研究発表

「小児用製剤の先発医薬品を後発医薬品へ変更した際の服薬コンプライアンスに関する調査」

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日程2010年10月10~11日
場所ホクト文化ホール(長野県県民文化会館)
研究者(株)まつもと薬局
大野伴和、福永尚文、田中啓介
小川美喜、實松成利、松本健春

はじめに

小児で使用される抗生剤では、「苦味」「後味」などが服薬コンプライアンスに大きく影響するため、その服用性の改善に薬剤師も何らかの形で関与していく必要がある。また、抗生剤とは逆に長期間の服用が必要となる薬剤については、その服用性の改善とともに、患者満足度の向上も重要となる。

目的

そこで今回、小児の感染症で使用されるメイアクト小児用細粒10%を後発医薬品へ変更することにより、その服薬コンプライアンスが向上するかを検討した。あわせて、小児喘息、アレルギー性鼻炎などで長期間使用されるオノンドライシロップ(以下、DS)10%を後発医薬品へ変更することで、患者満足度の向上に貢献できるかを調査した。

方法

①後発医薬品の選定方法:メイアクト小児用細粒10%
第42回 日本薬剤師会学術大会において、(有)参有堂の江夏らにより、大洋薬品の製品が、苦味・後味の官能試験において他社製品より評価が高く、先発品より良好な服薬コンプライアンスを確保できる可能性があるとの報告があった。そのため、今回後発医薬品は、大洋薬品の製品(セフジトレンピボキシル細粒10%:オレンジ味)を用いることとした。

②後発医薬品の選定方法:オノンDS10%
 図1に示す16社の製品の添加物、性状、薬価などをリストアップし、中でも特徴のある製品の製剤見本を各製薬会社より提供して頂き、製品の味、溶けやすさなどを主観的に評価し選定した。結果、溶けやすさでは各社製品とも あまり差が感じられなかったため、唯一バナナ味がついている小林化工の製品(プランルカストDS10%「EK」:果実様の芳香、バナナ)を用いることとした。

製品名添加物
添加物数
性状会社名薬価
(円)
オノンドライシロップ10% トウモロコシデンプン・ヒドロキシンプロピルセルロース・精製白糖
白色~微黄色の顆粒で、においはなく味は甘い 小野 87.5
プランルカストDS10%「TCK」 精製白糖・ヒプロメロース・トウモロコシデンプン
白色~微黄色の顆粒で、味は甘い 辰巳 43.1
プランルカストDS10%「アメル」 精製白糖・ヒプロメロース・トウモロコシデンプン
白色~微黄色の顆粒で、味は甘い 共和 56.4
プランルカストDS10%「オーハラ」 精製白糖トウモロコシデンプン・ヒドロキシプロピルセルロース・軽質無水ケイ酸
臭いはなく味は甘い 大原 45.5
プランルカストドライシロップ10%「NT」 精製白糖・乳糖水和物・トウモロコシデンプン・ヒドロキシプロピルセルロース
白色~微黄色の粒状または粉末 ニプロ 45.5
プランルカストDS10%「日医工」 精製白糖トウモロコシデンプン・アミノアルキルメタクリレ-トコポリマーRS・ヒドロキシプロピルセルロース
白色~微黄色のドライシロップで、においはなく味は甘い 日医工 50.3
プランルカストドライシロップ10%「NP」 精製白糖・乳糖水和物・トウモロコシデンプン・ヒドロキシプロピルセルロース
白色~微黄色の粒状又は粉末 ニプロ 52
プランルカストDS10%「MED」 軽質無水ケイ酸・白糖・ヒドロキシプロピルセルロース・部分アルファー化デンプン
白色~微黄色の顆粒状でにおいはなく味は甘い 日医工 53.5
プランルカストDS10%「サワイ」 軽質無水ケイ酸・白糖・ヒドロキシプロピルセルロース・部分アルファー化デンプン
白色~微黄色の顆粒状でにおいはなく味は甘い 沢井 56.4
プランルカストDS10%「EK」 香料・サッカリンナトリウム水和物・精製白糖トウモロコシデンプン・ヒドロキシプロピルセルロース・リン酸水素カルシウム水和物
白色~微黄色の顆粒で、果実様の芳香(バナナ)があり、味は甘い 小林化工 61.4
プランルカストドライシロップ10%「タイヨー」 含水二酸化ケイ素・軽質無水ケイ酸・サッカリンナトリウム水和物・乳糖水和物・ヒドロキシプロピルセルロース・部分アルファー化デンプン
においはなく、味は甘い白色~微黄色の粒を含む粉末 大洋 53.5
プランルカストDS10%「CK」 乳糖水和物・部分アルファー化デンプン・サッカリンナトリウム水和物・その他3成分
白色~微黄色の粒を含む粉末で、味は甘いドライシロップ剤 三和化学 56.4
プランルカストDS10%「マイラン」 乳糖水和物・部分アルファー化デンプン・サッカリンナトリウム水和物・その他3成分
白色~微黄色の粒を含む粉末で、においはなく、味は甘い。 マイラン 48.2

図1) オノンDS10%の後発医薬品一覧

③ メイアクト小児用細粒10%の後発医薬品への変更手順
対象患者:過去6ヶ月間にメイアクト小児用細粒10%を処方され、服薬を嫌がった(「のめなかった」あるいは「のみにくかった」)と回答した患者。
推奨内容:後味の悪さ、苦味が全くなくなるわけではないが、軽減されている。
聞き取り:変更した患者の薬歴には、次回聞き取り項目として、
1)前回処方されていた抗生剤はのめたか
2)以前出た抗生剤よりのみやすそうだったか
3)次回同じ抗生剤が出たらまた後発医薬品へ変更するかの3点を入力しておき、次回来局時に聞き取り調査を行った。

④ オノンDS10%の後発医薬品への変更手順
対象患者:オノンDS10%が単独で処方されている患者
推奨内容:バナナ味がついて、顆粒の粒も小さくなっている。
聞き取り:変更した患者の薬歴には、次回聞き取り項目として、
1)症状は変わりないか
2)今後も後発医薬品でOKか
の2点を入力しておき、次回来局時に聞き取り調査を行った。

結果

<メイアクトMS小児用細粒10%>
▪️後発医薬品への変更割合
対象とした患者の半数以上が後発医薬品への変更を了承されたが、全体の3割近くの方が、後発医薬品へ変更しないと回答した。(図2)

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図2. 後発医薬品への変更割合(メイアクト)

変更不可の理由としては、「のめているので」「薬得意なので大丈夫」「苦い薬も大丈夫だし、ジェネリックは嫌だ」などがあげられた。
尚、後発医薬品への変更可・変更不可の男女比、年齢構成などに違いはほとんどみられなかった。

▪️ 聞き取り調査の結果
今回聞き取り調査を行った患者では、100%の患者が「のみきった」と回答しており、後発医薬品の服薬コンプライアンスの高さがうかがえた。また、以前処方された抗生剤よりのみやすそうだったか?の回答では、「のみやすい」と回答した患者が半数いたが、「わからない」「かわらない」と回答した方も半数程度いた。 今回聞き取り調査を行った、34名の患者では、次回以降の処方について、「どちらでもよい」と回答した方も含めると、100%の方が次回以降も後発医薬品を希望する結果となった(図3)。

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図3. 聞き取り調査結果(メイアクト)


今回聞き取り調査を行った患者の平均投与量は、11.5mg/kg/dayで、来局までの平均期間は20日間であった。ちなみに、投薬時に聞いた薬の飲ませ方で多かったものをいくつかあげてみる。1)練って上あごにつけてのませている。2)ヨーグルト、バニラアイスに混ぜている。3)お薬のめたね、チョコレートゼリー。4)ヨーグルト、プリン、アイスなどに混ぜている。5)水に溶かして、後で味の濃いものを食べさせている。6)ヨーグルトに混ぜてのませている。

<オノンDS10%>
▪️後発医薬品への変更割合
後発医薬品へ変更しないと答えた方が半数程度いた。後発医薬品へ変更した方も同程度いた(図4)。

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図4. 後発医薬品への変更割合(オノン)


変更不可の理由としては、「のめているので」「のめているので、逆に味がついてのめなくなると困る」「甘みが苦手」「ジュースに混ぜてのませているので」「他の薬と混ぜて服用させているため」「味がついている薬の方が苦手なため」「あまり利点を感じない」などがあげられた。
尚、後発医薬品への変更可・変更不可の男女比、年齢構成、併用薬剤、服用量などに違いはほとんどみられなかった。

▪️聞き取り調査の結果
今回聞き取り調査を行った結果を以下に示す。

1)症状は変わりないか?
30名中30名が「体調変わりなし」と回答
2)今後も後発医薬品でOKか?
30名中29名が「今後も後発品でOK」と回答。
1名は、本人が先発医薬品に戻して欲しいと希望(味が嫌だったみたいとのこと)

全体を通して、後発医薬品へ変更した方の感想として、「味気に入っている」「バナナ味おいしかったようで喜んでのんでた」「溶けやすかった」「カルピスに混ぜてのませているが、のみやすかったみたい」「ざらざらしなくてのみやすい」といったプラスの意見が多く、味、溶けやすさに対する評価は高かった。

まとめ

メイアクトMS小児用細粒に関しては、後発医薬品への変更により、変更を希望した全ての患者が「のみきった」と回答し、「どちらでもよい」を含めると次回も後発医薬品を希望していることから、後発医薬品が先発医薬品より良好な服薬コンプライアンスを確保できる可能性が示唆された。
オノンDS10%に関しては、後発医薬品への変更により、症状の悪化が認められた患者はおらず、次回来局時に先発医薬品へ戻すことを希望された患者も1名のみであった。後発医薬品へ変更した患者さんの感想から、長期で服用する薬剤のコンプライアンスの向上や満足度の向上に寄与できる可能性が考えられた。
今後もこういった取り組みを通じて、薬剤師として患者さんのコンプライアンス改善に寄与していきたい。